しくみ通信

皇紀2679年 西暦2019年 平成31年から数えて 第8の新月の日に

中空存在(中空構造)
日本人は壊れてしまった。壊れるとはバランスを失うことだ。私たちはどうしてバランスを失ってしまったのだろうか?

人間には「善か悪」「黒か白」、「表と裏」「男と女」「幸せと不幸」、「子どもか大人か」「甘いか辛いか」「お金があるか無いか」「主流派か反主流派か」「右か左か」、というように、物事を対極にして思考し判断する習性がある。このこと自体がすでにコントロールなのだが、そのことに人は気づかない。魂(こころ)はヤジロベエのようにバランスを保って成り立っているのだが、そのバランスを失えば、私たちは魂(こころ)を保てなくなる。
例えば、「善」と「悪」は両者をコントロールする支えがあって存在しているのだが、その支力を失えば「悪が善」「善が悪」に変わる恐れもある。実際には「支え」は見えないので人は容易に気づかないのだが、とても重要な役割を果たしている。
京都大学の河合準雄氏は、「中空存在」という言葉を使って日本人のバランス感覚について説いているが、その中空存在はお伽噺「浦島太郎」にも現れているという。この物語には、一見そこに存在しなくてもいい老人が登場するのだが、実はこの老人が物語「浦島太郎」の重要な役目(バランス)を果たしている。
仲の悪い夫婦に子どもが生まれると、子どもが夫婦のバランスを保つ役目を果たすが、やがてその子どもが大人になって親元を離れれば、再び夫婦のバランスは弛緩していく。3人兄弟の真ん中は、兄と弟の間で兄弟のバランスを保つ役割を果たしている。
支えとはこうしたものかもしれない。「善と悪」「表と裏」「幸せと不幸」にも何かしらバランスを保つための「支え」が存在しているように、相対するものにはバランスを取る存在、もしくはバランスを保つ役割が存在し、それをユング派は『老賢者』と呼ぶ。老賢者は自己主張をせず、バランスを保つまとめ役に徹するのである。
男と女の場合、女性には子どもを産み育てる役目があり、男性はその女性と子どもを守り支えるという役目がある。これもバランスのひとつだ。

「中空が空であることは、善悪、正邪の判断を相対化する。統合を行うためには、統合に必要な原理や力を必要とし、絶対化された中心は、相容れぬものを周辺部に追いやってしまうのである。空を中心とするとき、統合するものを決定すべき、決定的な戦いを避けることができる。それは対立するものの共存を許すモデルである。」
「わが国が常に外来文化を取り入れ、時にはそれを中心においたかのごとく思わせながら、時がうつるにつれそれは日本化され、中央から離れていく。しかもそれは消え去るのではなく、他の多くのものと適切にバランスを取りながら、中心の空性を浮かびあがらせるために存在している。」  河合隼雄氏の名著「中空構造日本の深層」より

このように考えると、世の中にとって不必要だと思うもの、「無」や「空」も認識する必要があるだろう。これらが人間界のバランスを保つヤジロベエの支えとなっているからだ。

鶴田勝巳税理事務所 所長・鶴田勝巳の通信より