しくみ通信

皇紀2678年 2018年 平成30年 第8の新月の日に

皇紀2678年 2018年 平成30年 第8の新月の日に

 

─自分の中の事実を元に経営を

 

東洋と西洋には、仏教の「レンマの論理」とユダヤ・キリスト教の「ロゴスの論理」という文化があります。「ロゴスの論理」は〈善か〉〈悪か〉二者択一(黒か白か)の考え方ですが、「レンマの論理」は〈善〉と〈悪〉の二者が同時に存在しています。〈善〉は〈悪〉があって初めて存在でき、〈善〉〈悪〉がそれぞれ単体で存在しているものではない、という考え方です。つまり「すべてのものは互いに相まって存在している」という考え方が根本で、仏教はこれを「空(くう)」と表現しています。

ユダヤ・キリスト教においては「万物は『全能の神』によって創造され、世界は決して永遠ではない(終末思想)」、仏教では「万物は空である」「絶対者も空である」「「天地万物は絶対者と共にある」、また死んだ生物が土に帰り、そこからまた新しい生命が誕生するという「輪廻転生」の概念も加わって、万物は永遠に流転する「円環的世界観」を成立しました。

 

このような東西の文化の中で、最も重要な文化が「会計」「帳簿」だと言ったら皆さんは驚くかもしれません。しかし、現実に会計は教育にも取り入れられ、それぞれの民族、国家や思想、宗教などの倫理思想に反映した文化として、その位置を留めているのです。

アナログで原始的な「帳簿」は文化であり歴史の賜物といえます。

会計と歴史、双方の知見を持つジェイコブ・ソールが手がけた『帳簿の世界史』は、アダム・スミス、カール・マルクス、マックス・ウェーバーといった面々が口を揃えて主張した帳簿の力を紐解いた一冊で、アクセスログやライフログといったログ全盛の現代社会において、帳簿という最も古典的なログの重要性を説き、螺旋階段を少しずつ上りながら、帳簿が進化したことを描いています。

 

14世紀のイタリアで巨万の富を築いたトスカーナ商人のダティーニの帳簿は、既に複式簿記で記述され、近代的な会計と情報時代が誕生していたことを示しています。ダティーニのジレンマは、利益と宗教にありました。なにしろ当時は金を扱う職業や会計慣行の大半が教会法に違反する時代です。彼は高利禁止令をすり抜けるために両替商で利益をあげ、多くの貧困を根絶するための善行に生涯を捧げたといわれていますが、金勘定は汚らわしい行為とするキリストの教えから逃れることはできたのでしょうか。

フィレンツェ屈指の名家として知られるメディチ家一族が歴史の表舞台から姿を消していく過程でもジレンマは存在していました。コジモ・デ・メディチを悩ませていたのも、商売に必要な会計知識と神聖なる学問のどちらをとるかということでした。

また、フランス・ブルボン朝の最盛期を築いたルイ14世栄華の背景に、コルベールという名宰相の存在があったことはよく知られるところで、ルイ14世自身も簿記を理解し好んで帳簿を持ち歩いていたといいます。しかし会計を理解したがゆえに、コルベールの死後、ルイ14世はその技術を遠ざけていきます。一度は取り込んだ会計技術との乖離が、後のフランス革命につながっていくことなど、当人は知る由もありませんでした。

 

700年近くに及ぶ会計の歴史を振り返ることで見えてくるのは、会計が文化の中に組み込まれることで、社会は繁栄するという事実です。

ルネサンス期のジェノヴァやフィレンツェ。黄金時代のオランダ。18世紀から19世紀にかけてのイギリスとアメリカ。「帳簿世界史」の随所に各時代の絵画が挿しこまれており、会計士の描かれ方からその時代の有り様を伺い知ることできます。

 

「数字」「会計」「帳簿」「家計簿」「小使い帳」など金銭出納帳は、「心の避難所」といえるでしょう。なぜなら、数字の動きは心の動き、身体の動き、考え方の結果なのですから。

 

 

鶴田勝巳税理事務所 所長・鶴田勝巳の通信より