2021.09.26
福岡正信

戦略の第一歩は、国有鉄道の解体、通信機関の民営化で、これを民主主義の名ですすめる。第二歩は、情報網の掌握のためテレビ、新聞への接近介入、政治圧力で株式の公開ができたら布石は終わる。後は知的所有権の主張、株の暴落をまち株式会社の乗っとりが始まるだけで、そのための弁護士が多数日本におしかけるようになれば、日本の経済も終わりと思えば良いと笑いました。
また、一つの産業を滅ぼす戦術の例として、日本の酒亡ぼしを話してくれました。その席で出されたコップには白い酒が入っていました。
「これは貴方が創った日本酒(ハッピーヒル)の米から創った自然酒ですよ」。酒の飲めない私にも、それは明らかに日本のどぶろくで、コップを手にするとニチャニチャしていて、甘く口当たりのよい酒でした。
彼は、大物を助けて、小物をまず倒す戦術だという。すなわち日本の地酒を滅ぼすために、一、ニの大酒造会社と手を結び、彼らに、アメリカのコーンからとった酒精(アルコール)を日本酒に混ぜることを教える。50%くらいまぜるまで、日本人は味の低下に気づかないはずだ。その数年の間に多量生産の安い酒で、日本の酒造会社は大儲けする。その儲けた金を米国に持ち帰るようなことはしない。その金は全部テレビの宣伝費に使って、地酒亡ぼしに協力する。地酒が滅び、日本米の酒がアルコール酒に変わり、味が下がれば、日本人の日本酒離れが始まるだろう。その時リキュール酒や洋酒を売りつける(確かに一時洋酒がはやり、日本酒より焼酎がもてた時がありました)。しかし最後には、一番うまいのはやはり日本酒だと気づくだろう。その時のため、今このカリフォルニアでの自然の日本酒を造っているのがこれだという。大柄で笑顔をたやさない彼の話の中で、アメリカ人の深慮遠慮としたたかさをみた思いがしました。
帰国後、一、二年した時、そのときはまだ日本政府の主税局の許可が出ないといっていたカリフォルニア産の自然酒が日本に進出し、銀座の高級料理店の自然酒はみな米国産だと聞かされました。
しかし実際は、日本の地酒もしたたかで、グルメブームにのり、なんとか危機を脱したようにみえます。だが問題は、彼らの最終目的である大酒造会社との合併、乗っ取りです。本当に大丈夫でしょうか。安心できないうわさもちらほら聞きます。