鏡の嫌いなわたし
どこの家にも鏡があります。
朝には顔を洗い、歯を磨き、髭を剃り、女性はお化粧やヘヤーセットで大忙し。男性より女性の方が鏡に向かう時間は長いですね。
鏡というのは自分の顔や姿を映し出すだけではなく、もう一つの世界、もう一人の自分を映し出す世界でもあります。
じっと、鏡の中の自分を見つめます。
すると、映った自分は素直に正直に応えてくれます。
疲れた時は疲れた顔、やつれれた時はやつれた顔、悲しければ悲しい顔、怒っていれば怒り顔、楽しければ楽しい顔になります。
鏡は嘘をつきません。
きっと、自分よりも正直なのですね。
道具としての鏡はわたしたちの生活に必要不可欠なものですが、あまり好かれていないようです。正直すぎるところが嫌われる所以なのかもしれません。
鏡の中の自分を見て、腹が立つ人もいます。
誰が見ても美しい人なのに、鏡の中の自分は大嫌いだという女性がいます。年老いたシワだらけの顔、髪の毛が薄くなった姿、齢と共に変化していく自分。鏡に向かうのが嫌になっていきます。
しかし、それは鏡のせいではありません。
鏡は真実を見せてくれているだけなのですから。
こんなお話があります。
マリーは鏡を見るのが大好きな女の子です。
鏡はとても不思議。
いつも眺めている世界なのに、鏡を通して見る世界はまるで違って見えるからです。
どうしてでしょうね。
マリーには一緒に遊べる友だちがいません。小さな時から病気がちで外に出られず、お友だちとお話したことがありませんでした。
そこでマリーは、鏡の中に映る自分とお話をすることを思いつきました。
鏡とお話ししていると、毎日が楽しくなります。
ママのことや仕事が忙しくて会えないパパのことをお話しする鏡は、マリーの唯一の友だちでした。
「マリー、元気?今日は楽しいかなあ、何かいいことがあるかなあ…」
鏡に向かって語りかけます。
鏡の中の自分に本を読んで聞かせたり、一緒に音楽を聞いたりもします。
でも、とても寂しい時があります。
それは、パパが仕事で何か月も帰って来ないときです。
そんなときは、ママも寂しそうです。
家族が三人揃うときには、大きな鏡の前で三人頬を寄せ合い記念写真でも撮るかのように、笑顔でポーズをとります。そして、鏡の中にいるパパとママに話しかけます。
「パパ、ママ、愛している」
「ママもパパも、マリーを愛しているよ」
それは、とても楽しいひとときでした。
でも、マリーが11歳になった時、パパは戦死してしまいました。
ママは、マリーが18歳の時に肺炎でこの世を去り、マリーはママの妹のところに預けられ暮らすことになりました。
想い出は何もかも置いてきてしまいましたが、無理をいって大きな鏡だけは、叔母さんの家に持ってきました。でも、マリーはその大切な鏡にシーツをかぶせて見えなくしてしまいました。その理由は、いつも鏡の中の自分が泣いているからです。
鏡に映る自分の姿が悲しすぎて、見たくなくなってしまったのです…。
やがてマリーは素敵な男性と出合い、結婚し、二人の女の子に恵まれました。
シーツが外された鏡の中に、優しい夫と可愛い娘二人と自分を映して話しかけました。
マリーは鏡の前で子どもの頃のことを、娘に話しました。
「この鏡の中にはね、私のママとパパが住んでいるのよ。
そして、私たちもここにいるの。
嬉しいとき、楽しいとき、この鏡の中にいる自分に話しかけてね。
〈よかったね〉って。
自分に負けそうになったとき、
〈がんばれ〉〈負けないで〉って。
とても悲しい時は、〈愛しているよ〉〈大好きだよ〉って。
間違えたことをしたとき、悪い事をしたときは、〈ごめんなさい〉って心から謝るのよ。
苦しい時は〈大丈夫だよ〉〈きっと良くなるよ〉ってね。
嫌なことがあったら、その嫌なことを話しなさい。
そしてね、〈鏡さん、ありがとう〉って言うのよ。
そしてね、〈人生はどんなことがあっても素晴らしいもの〉と言うのよ。
悲しい顔をすれば、人は悲しくなるの。
不幸な顔をすれば、不幸になる。
楽しい顔をすれば、楽しく、幸せになれるのよ。
鏡には不思議な力があるのよ」
人は、自分の姿がわかりません。
他人のことは良くわかるのに、意外と自分のことはわからないものです。
ですから、自分が見ている世界だけが真実だと思い込んでしまいますが、そこには〈もうひとつの自分の存在〉があることを認めなければなりません。
なぜなら、自分が考え、思っているほど相手はそう見ていないからです。
つまり、自分が勝手に決めつけているイメージに自分がなっているということです。
例えば、誰にも欠点があります。
でも、自分が思う欠点ほど他人はそう思っていないものです。逆に、他人はその欠点を長所として見ていることが多いのです。
自分では笑っているつもりなのに、他人から見たら怒っているように見えたり、不機嫌そうに思われたり…そのために敬遠されたりもします。その点、写真や鏡には、その姿が冷静に正しく映し出されます。
自分の姿を写真で見て「これはオレじゃあない。映し方が悪い…」と、真実を認めようとしない人もいます。どうやら、笑顔や表情にもっと意識(努力)する必要があるようです。
「私は自分の姿が映る写真は嫌い、だから見るのも嫌だ…」という人も多くいますね。
マリーは子どもたちに教えました。
「いいわね、鏡に映った自分に、〈ありがとう、わたし〉」と、いつも話すように、と。
そして、
「鏡の前では涙を拭いて、ニッコリと笑顔でいなさい。その笑顔はあなたを幸せにしてくれるから…。手を振るのもいいわよ、必ず手を振りかえしてくれるからね。あなたの一番の友だちは〈あなた〉なのよ…。だから、大切にしなくちゃね」と。
さて、今日のあなたは不機嫌な顔をしていますか?
それとも、笑顔ですか?幸せですか?
〈ありがとう〉と、自分に話しかけていますか?
©Social YES Research Institute / CouCou