鏡の向こう側

鏡の向こう側

 

自分の顔を鏡に映してみたら、そこにはかあさんと、とうさんの顔がありました。

わたしは、かあさんにそっと話しかけて見ました。
「かあさん、かあさん、ねえ、かあさん。かあさんは元気?今、どこにいるの?」
鏡に映るかあさんは何も答えてくれません。

わたしは、とうさんにもそっと話しかけて見ました。
「とうさん、とうさん、ねえ、とうさん。父さんは元気?今、どこにいるの?」
とうさんも何も答えてくれませんでした。

そうですよね。
とうさんも、かあさんもこの世にはいないのですから・・。
でも、鏡を見るたびに、かあさんがそこにいるように感じます。
わたしって、笑うとかあさんに似ていて、首を曲げたところはとうさんにそっくりです。
だから首を曲げると、とうさんを想い出します。
わたしには、とうさんやかあさんの面影が残っている…だから、今はもう寂しくはありませんよ。
人は誰も、
とても、とても寂しい時があります。
とても、とても悲しい時があります。
とても、とても辛い時があります。
でもね、今はもう寂しくはありませんよ。
そんな時は、鏡の中にいるかあさん、とうさんに話しかけるのよ。
すると、この世を去っていったとうさんとかあさんが鏡の中から話しかけてくれるのです。
とうさんとかあさんは鏡の中から微笑んでくれました。
わたしも微笑みかえします。
わたしが悲しくて泣いたりすると、泣き返されてしまいます。
だから、わたしは鏡の前でいつも笑うことにしています。
とうさん、かあさんが笑ってくれるからです。

「かあさん、とうさん。ねえ、かあさん、とうさん。わたしは元気ですよ。わたしは幸せですよ。寂しくなんてないですよ」
そう、そっと話しかけました。
すると、鏡の中のかあさん、とうさんは、
「そう、良かったよ。ありがとう、元気でいてくれて。ありがとうさん・・」
そう答えてくれました。

鏡に映るわたしの手はかあさんの手、わたしの目はとうさんの目。
そう、わたしはとうさん、かあさんそのものでした。

わたしは、涙が止まりませんでした。
鏡の向こう側のとうさん、かあさんも泣いています。
でも、悲しい涙じゃあないですよ、これは。
とても、とても嬉しい、幸せの涙なのですから。

わたしは鏡に向かって「ありがとう」といいました。
鏡の向こう側からも「ありがとう」と聞こえてきます。
とうさん、かあさんは、わたしの中で生き続けているのだから。

 

一九九一年九月一九日。アルプス山脈で一人の男性の遺体が発見されました。
その身元不明の男性には「アイスマン」という名がつけられました。
身元不明なのは当然のことで、その男性は約五〇〇〇年前の遺体だったのです。
オックスフォード大学で人類遺伝学を研究しているブライアン・サイクス(イギリスの分子人類学者、人類遺伝学者、遺伝学教授)のチームは、その遺体からDNA採取し、「アイスマン」がヨーロッパ人であることを確定し、さらに研究所のラボに保存されているDNAサンプルの中から「アイスマン」とぴったり一致する女性を見つけたのです。驚いたことに、その女性は「アイスマン」の先祖だったのです。

ブライアン・サイクスは、一九八九年『ネイチャー誌』で古代人骨からDNA型鑑定が可能であることを発表しました。また、アイスマンやチェダーマンのミコンドリアDNA(遺伝子)を解析し研究発表を行いました。(著書「イブと七人の娘たち」大野晶子訳・ソニーマガジンズ発行)
それがきっかけとなり、ブライアンは何千世代、何百万世代も遡り、遺伝的なつながりを究明した結果、現存する人類は、わずか七人の女性から誕生したことを証明したのです。
現在する六億五千万のヨーロッパ人の共通祖先は、約四万五千年前から一万年前のある地域に暮していた七人の母親だということ。さらに、その七人の女性は、アフリカ大陸にいた一人の女性を母親に持つということでした。

私たちの身体細胞は約六十兆あり、生物はみな同じ生物を生み、それによって何千年も生き続けているのです。DNAは細胞から細胞へ、そして親から子どもへ同じ性質を遺伝します。
このように、私たちの身体の中の細胞は何千年、何万年という歳月をかけて親から子へと受け継がれていることがわかります。

「鏡の向こう側」のわたしは、ははるかな時を超えるDNAによって、両親、両祖父母、曾祖父母、さらに続くご先祖さまのDNA細胞を保ち続けています。
自分の中に遺された記憶や無意識といったものの中に、人は新たな自分を発見するものなのかもしれませんね。

©Social YES Research Institute / CouCou

つるた勝巳税理士事務所

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