占いのできない占い師の物語

占いのできない占い師の物語


占いの街では、朝から多くの占い師たちが、少しでも良い場所を確保しようと辺りを見回しています。世界中の国々から多くの人が占いを目当てにこの街を訪れるからです。

通りは「占い通り」と呼ばれていました。
占い師たちの年齢はいくつぐらいでしょう?尋ねたところ、80歳以上のおばあさんが多いといいます。若い占い師は人生の経験が少ないので、あまり当たらないという噂が立ち、商売にならないと判断した若い占い師たちは、皆この街から離れて行ってしまったというのです。
「占い通り」には、とても人気のある占い師がいるといいます。毎日予約がいっぱいで、せっかく遠くから来たのに、なかなか占ってもらえないという状態です。
その占い師は、なんと97歳の高齢。皆からジョゼばあさんと呼ばれていました。

ジョゼばあさんのところへ通う相談者のひとりにミシェルという女の子がいます。
ミシェルがジョゼばあさんの占いに通い始めて三年が過ぎようとしていました。
不思議なことですが、相談者のほとんどはミシェルのような若い女の子たちです。
女の子たちが占ってもらいたい内容のほとんどが恋愛についてだそう。

「彼が浮気をしてしまった。もう彼のことが信じられない・・・」
「好きな人ができました。とても大好きですが告白できません・・」
「好きな人に彼女がいます・・どうしたらいいの?」
「結婚したいと思っているのですが、まだ彼にはその気がないの・・」
ジョゼばあさんは占うわけでもなく、これといったアドバイスをするわけでもありません。ジョゼばあさんは彼女たちの話に真剣に耳を傾け、うなずき、ほほえみ、時には涙します。ただそれだけ。

大人たちは、家族の悩み、不平不満、愚痴や悲しみが中心の相談ばかりでした。
わたしはミシェルに尋ねてみました。
「ミシェルは何を占ってもらうの?なぜジョゼばあさんに占ってもらいたいの?」

「そうねぇ…。ジョゼばあさんは将来のことを占ってくれるわけではないし、これといって何かアドバイスをくれるわけじゃあないのよ。いつもの口癖は『良かったねぇ、良かった、良かった』なの。悲しいことでも、嫌なことでも、辛いことでも、ジョゼばあさんは必ず『良かったね』って言うのよ。何が良いのかわからないけど、悩むたびに言われると、何か良い気がしてくるの・・。あとはただ聞いてくれるだけ」
ミセルの話しだけではよくわからないわたしは、ミシェルが占ってもらうときに同席させてもらうことにしました。もちろん、ジョゼばあさんとミシェルには了承を取って。

「ハーイ、ジョゼばあさん。元気?また相談に来たよ!あのね、この間の彼とケンカして別れてしまったの…それでね…」
「ほう、別れたんだ。良かったね」
「それでね、また新しい彼氏ができたの。こんどの彼はね、とてもハンサムで頭も良くて、何よりも私をとても愛してくれるの・・」
「ほう、良かったね。いい彼氏ができたんだね。」
そばで聞いていたわたしは、いつまでたっても占いを始めないジョゼばあさんに、なぜか圧倒されていました。ただ、ミシェルの話を延々と聞いているだけなのに…。

相談(占い?)が終わったあと、わたしはジョゼばあさんに尋ねてみました。
「あなたはどうして占いをしないのですか?ミシェルの現在や未来について…」
「あんたね。占いでその人の人生が当たると思っているのかい?たとえ当たったとしても、その子の人生にとって何が良いことなんだい?それにわたしの占いなど何も当たりゃあしないよ。こんな占いのできない占いばあさんのもとへ、こうしてたくさんの人が訪ねて来てくれる。それだけで嬉しいこと。わたしにできることは、ただ静かに、真剣に、この子たちの言うことを聞いてあげること。答えなんていうものはね、この子たちの中にあるもの。みんな答えを知っているはず。自分の未来は自分で創らなくちゃ。こんな年老いたおばあさんでも、こうして人の役に立つのだから、もっともっと頑張りたい、そう願っているだけ…」

帰りがけ、わたしはまたミシェルにジョゼばあさんのことを尋ねてみました。
「ミシェル、ジョゼばあさんの何が、どこが良かったの?」
「うーん。むずかしいな。でもね、ジョゼばあさんに話を聞いてもらえると、胸につまっていたものがぜんぶ吐き出されるみたいでスッキリするの。心が癒されているのかもしれないね。それに、ジョゼばあさんのところへ来る子たちは、占いをしてもらうためじゃないよ。困ったことや、悲しかった時に、ジョゼばあさんに話を聞いてもらえるだけでほっとして、みんな帰っていくの」
「そうかぁ…。でも少しくらいは話してくれるのではない?何かアドバイスとか?」
ミシェルは少し考えてから、こう答えた。
「そうねぇ…。そうだ!こんなことを言っていた。『不幸だと想ったことでも、やがてすべてが幸せな想い出にかわる時が来るって。たとえば、わたしが別れた彼氏の話をすると、『良かったわね、ミシェル。あなたまたステキな恋ができて。またひとつ、ステキな想い出が残るわ!だから恋をあきらめてはいけないわ。何度でも新しい恋ができる。わたしはね、ミシェル。若い頃あなたよりもいっぱい、いっぱい、人を好きになったわ。何度もふられ、別れ、とても悲しい時期もあった。でもね、この歳になると、そのすべてが素晴らしい想い出に変わるのよ。わたしはその頃を想い出すだけで、今でもドキドキしてしまうわ。だから別れた人、離れてしまった人すべてに感謝しているのよ、輝く想い出をくれてありがとう、ってね。だって、わたしは真剣に彼のことを好きだったし、愛したし…だからね、わたしはすべての人に「良かったね」と言いたいのよ…』。ジョゼばあさんがこんな話をしてくれたことを覚えているわ…」

そうかぁ…。
本当の喜びとか幸せは、その場ではわからないものなのかもしれない。
愛する人と別れたり、離れたりするのは悲しいことだけど、時はやがてそれを喜びに変え、素敵な想い出にしてくれるのだ…。

その後、わたしはジョゼばあさんのところへひとりで訪ねていくことにしました。
「まあ!幸せそうなあなたがわたしのところに来るなんて…どうしたの?」
 ジョゼばあさんは、すでにわたしの心中を見ているようでした。
「実は、男を作って逃げていった女房のことが、どうしてもわたしは許せないのです。せめて一言でも相談してくれていれば、良き想い出として残っていると思うのですが…」
ジョゼばあさんは一時間余りわたしの話を聞くなかで、時に笑い、時に涙し、時に怒り、不思議なほど自然体の人でした。
そして最後に、「あなた、良かった。逃げた奥さんも幸せ、あなたも幸せ。みんな幸せじゃない?」
「何が良かったのですか?なぜ幸せなのですか?」
わたしにはジョゼばあさんの言う意味がわかりませんでした。

「あなたは奥さんのことを心から愛していたのでしょう。奥さんも心からあなたを愛していたはずよ。だから去って行った。きっと奥さんはあなたのことを今でも想い続けていますよ。愛というのはすべて形が違うもの。想い方も違うもの。あなたに対する愛と、いま奥さんが愛している人への愛は違う。あなたと奥さんとの愛。それはひとつしかないもの。この世に二つとない、ふたりだけの愛。それは真実、不変の愛といえるわ。だってそれだけ愛しあったんだもの。だから、あとはその愛と想い出に感謝しかないわ。わたしはね、前の旦那と別れて違う男と駆け落ちした。だけど、前の旦那との美しい想い出は今も鮮明に覚えている。この歳だけど、胸も少し痛む。でもあの時の二人の愛は何も変わらない。あの人の幸せを心から願っている…」
「・・・。」
「人は死ねばわずかな灰と塵になる。人はいつの日か離れてしまう。でも愛する心は永遠に残る。わたしはこの世を去るとき、わたしの中にあるたくさんの素敵な想い出が蘇ると信じているわ。その時が来たら、『ありがとう、あなた』という感謝の言葉を投げかけるの。ひと時でも愛してくれてありがとう、ってね…」
「・・・。」

わたしはジョゼばあさんに何も反論できませんでした。
よく考えてみれば、わたしも素晴らしい想い出ばかりだったから…。

費用はわずか五セントばかり。女の子たちのように支払って、その場をあとにしました。

あいかわらずジョゼばあさんのところには、若い女性が日々訪れています。

「占いの街」を去る電車の中で、わたしはジョゼばあさんの言葉を想い出していました。
わたしと逢えて「良かったね」あなたは。
あなたと逢えて「良かったね」わたしは。
人生はすべて「良かったね、という感謝」しかないんだよ。

そう…ジョゼばあさんに逢えて良かったと、私は想う。


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つるた勝巳税理士事務所

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